2019年6月14日

沈黙の田 Rice field in Silence

毎朝、田んぼを覗き込んでから、登校する。

田んぼの中は、びっくりするぐらい、にぎやかで、
オタマジャクシがおよぎ、タニシが這い回り、いろんな小さな生き物が
せわしなく、動き回っている。

このオタマジャクシ、なにガエルのオタマジャクシなのかな?
確かめたくって、
「今日、帰ってきたら、つかまえて、育てよう」
と朝、約束した。

夕方、網とビンを持って、田んぼに向かった、私たちは、呆然とした。

一匹も、オタマジャクシがいない。
タニシも沈んで、動かない。
つまんでみたが、反応がない。死んでいる。

たった半日で、明るい、のどかな田んぼの生き物が、死滅していた。
見ると、化学肥料らしき、赤い玉が、いっぱい撒いてあった。

他の田を見て回ったけど、どこも、化学肥料が撒かれて、
生き物は、見当たらなかった。
「朝、捕まえておけば、少しだけでも、助けられたのにね」
と、悲しくなった。

諦めきれず、遠くの田んぼまで、ずっと歩き続け、
やっと、まだ、水が入ったばかりの田んぼで、小さな小さな
オタマジャクシを見つけた。
もしかしたら、ここも、数日したら、化学肥料を撒くかもしれない。
3匹だけ、小さなオタマジャクシを捕まえて、飼うことにした。

そこの田んぼで、鳥の巣を見つけた。
家に帰って、パパに説明するために、ナノカが絵を描いた。
「ケリ」という鳥の卵みたい。
次の日、行くと、卵が一個増えていた。

農村に暮らすと、豊かな自然と、
そして、現代の社会の抱える問題を、身近に感じることになる。

先日、サツマイモの事を調べた時、
日本の田んぼの生産高は、化学肥料と機械に支えられている、
という話を読んだ。
石油の輸入がストップすると
その年の稲作は壊滅的になる、というぐらい、化学肥料に依存している。
経済と生産性と人手不足なんかを考慮すると、
日本の稲作や農業は、これがスタンダードなんだろう。

田んぼに行けば、オタマジャクシもカエルもゲンゴロウも
いると思っていた。
でも、春のこの作業を繰り返すことで、生き物は、毎年、確実に減っているし、
なんとか、生き延びている生き物も、いつか、世代をつなげることが
できなくって、消えていくのだろうな、と思った。

その夜、その事を思うと、胸がいっぱいで、眠れなかった。
それぐらい、のどかな日なたの水田と
半日後に現れた、沈黙の田は、恐ろしいほどの差だった。

都市部に住んでいる時は、実感することがなかった、
生き物の死滅していく様子。心がざわつく。
自然が近いからこそ、知らなくてはいけないという現実。

ナノカの心は、どう思っただろう?
子ども達は、どう感じるのだろう?

知らないままでも、生きていけるのかもしれないけれど、
知っている人に、社会を、託したい。
経験豊かで、視野が広く、思慮深い、人に、上に立ってもらいたい。

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